その日谷川は信じられない光景を見た。先輩棋士のK九段が”名人である”自分を
さしおいて上座にすわっているのだ。
”K九段は何か勘違いをされているのかも・・・”と思い、しばらくその場に立ち
つくしてみたが、K九段の態度に変化はない。どうやら承知の上でのことらしい。
仕方がないので、下座に座る。しばらくは、ふてくされながら将棋を指していたそうだ。
K九段はつづく順位戦でも、当時三冠の米長を相手に上座にすわり、米長の怒りを
かっている。
彼の言い分としては、”十段リーグ(VS谷川)、順位戦(VS米長)では自分の方が
対戦相手より順位が上だから”だそうだ。
そして数年後、当時四冠の羽生が順位戦で中原を相手に上座にすわるという”事件”が発生した。
中原に対して上座にすわるのだから、最終戦の谷川戦も当然の如く上座にすわった。
将棋は実力の世界−とは言うものの、礼を重んじる世界でもあるので一連の羽生の態度には批判も
あった。
当時羽生は、将棋マガジンに講座の連載をしていたので、後日対中原戦に関しては、謝罪している。
”前名人がタイトルに準じるとは知りませんでした。”と。これは裏を返せば、たとえ相手が中原
であっても、無冠かつタイトルに準ずる称号を何も持っていなければ、自分が上座でも構わないという
ことになるだろう。
こういうことは今後も起きるのだろうな。そのたびに物議をかもしだしていくことだろう。
ただ、”普及”のことを考えるのなら、多少のルール化は必要だと思う。